
大腸がんと診断された患者さんやご家族にとって、「転移」という言葉は大きな不安を伴うものです。
転移がどのように起こるのか、その仕組みを正しく理解することは、治療方針を決定する上で極めて重要です。大腸がんは早期に発見できれば治癒の可能性が高い一方で、進行すると他の臓器へ広がる特性を持っています。
本記事では、大腸がんの転移メカニズムと広がり方の特徴について、医学的な視点から詳しく解説します。転移の仕組みを知ることで、早期発見の重要性や治療選択肢についての理解が深まるでしょう。

大腸がんはステージによって治療内容や予後が大きく異なります。本記事では、各ステージごとの治療方針の違いや、予後の考え方について医師の視点でわかりやすく解説します。
大腸がんは、大腸の内側を覆う粘膜から発生します。
最初は粘膜の表面にとどまっていますが、がん細胞が増殖するにつれて、大腸の壁の奥深くへと食い込むように広がっていきます。この過程を「浸潤」と呼びます。がん細胞は分裂を繰り返し、何十億から何百億にまで増えると目に見える大きさになります。
がんが大腸の壁に深く浸潤していくにつれて、壁の中にある血管やリンパ管にがん細胞が入り込むようになります。
ここからがんが他の臓器やリンパ節に「飛び火」する転移が始まるのです。転移とは、がんが発生した場所(原発巣)以外の場所に移動し、そこで定着してさらに大きくなることを指します。これががんが「悪性の病気」と呼ばれる理由です。
興味深いことに、近年の研究では、遺伝的な多様性を持ったがん細胞集団が細胞塊(クラスター)を形成して体内を移動し、遠隔臓器に転移巣を形成する「ポリクローナル転移」という機構が明らかになっています。転移性の高い悪性がん細胞が転移ニッチを形成することで、非転移性がん細胞を含んだ転移巣が形成されることが分かってきました。
出典国立研究開発法人日本医療研究開発機構「大腸がんの多様性が促進する転移機構を解明!」(2021年2月)より作成

大腸がんの転移には、大きく分けて3つの経路があります。
がん細胞が大腸の壁に浸潤し大きくなるにつれて、壁の中にあるリンパ管に入り込んできます。
リンパ節には免疫の働きによって、体に侵入してきた細菌などの病原体を攻撃し排除する機能があります。通常はリンパ節でがん細胞も攻撃を受けるのですが、がん細胞が勝つとそのリンパ節の中で増殖を始めます。これを「リンパ節転移」といいます。
リンパ管は全身に張り巡らされているため、リンパ節転移したがんがリンパ管を通じてさらに次のリンパ節に流れていき、そこでまた増殖するようになります。リンパ節転移は、通常はがんが発生した部位に最も近いリンパ節にまず起こります。そのため、大腸がんの手術では原発巣を切除するとともに、周辺のリンパ節を一緒に切除することが一般的です。
がん細胞が大腸の壁の中にある毛細血管の中に入り、血液の流れに乗って体の他の部位に移動し、移動した先で大きくなることを「血行性転移」といいます。
大腸から流れ出る血液(静脈血)はまず肝臓に集まることから、大腸がんが転移する臓器は肝臓が最も多く、次に多いのが肺です。そのほか、同様に血液の流れに乗って、骨や脳に転移することもあります。
大腸がんの肝転移病変では、薬物療法後に画像で病変が消失することがありますが、実際は腫瘍細胞が残っていることもあるため、画像上消失したとしても切除可能であれば切除するという治療方針が採られています。
出典国立がん研究センター「薬物療法後に消失した大腸がん肝転移病変の画像診断と術後診断の一致率を評価」(2025年9月)より作成

播種(はしゅ)とは、「種をまく」という意味です。
大腸がんは進行すると、やがて腸管の壁を突き破って腸の外側に顔を出すようになります。すると、ここからがん細胞がお腹の中の空間(腹腔)へこぼれ落ちます。胃や腸など、お腹の中にあるさまざまな臓器は、腹膜という膜にくるまれた状態でお腹の中に収まっています。
腹腔へこぼれ落ちたがん細胞が、この腹膜に種をまくように散らばり、お腹の中全体で広がるように増殖していきます。これを「腹膜播種」または「がん性腹膜炎」と呼びます。腹膜に散らばったがんが大きくなると、がんが内臓を圧迫するので、食べ物や便の通りが悪くなったりします。吐き気などを伴うこともあります。
また、播種を起こしたがんは水を出すので、この水がお腹にたまってしまうと(「腹水」といいます)、お腹が張って苦しくなったりします。
大腸がんの転移には、特定の臓器に転移しやすいという特徴があります。
最も転移しやすいのは肝臓です。これは大腸から流れ出る静脈血がまず肝臓に集まるという解剖学的な理由によるものです。肝臓への転移は、大腸がんの進行例において最も頻繁に見られる転移形態です。
次に多いのが肺への転移です。血液循環の経路上、肝臓を通過した血液は心臓を経由して肺に流れ込むため、肺も転移の好発部位となります。肝臓と肺以外では、骨や脳への転移も起こり得ますが、これらは比較的頻度が低いとされています。
転移巣の形成には、転移性がん細胞が肝星細胞などの間質細胞を活性化させて線維性の転移ニッチを形成することが重要です。この転移ニッチが形成されることで、非転移性がん細胞も生存・増殖できる環境が整い、ポリクローナル転移巣が形成されることが明らかになっています。
転移が起こる時期についても理解しておくことが重要です。
大腸がんの術後には、転移や再発を早期に発見するための経過観察(サーベイランス)が行われます。転移・再発の多くは術後2年以内に発見されることが多いとされていますが、それ以降も慎重な経過観察が必要です。
大腸がんの転移を防ぐ最も効果的な方法は、早期発見・早期治療です。
がんが粘膜の表面にとどまっている早期の段階では、転移のリスクは極めて低く、内視鏡的な治療や手術によって完全に治癒できる可能性が高くなります。しかし、がんが大腸の壁に深く浸潤し、血管やリンパ管に入り込むようになると、転移のリスクが急激に高まります。
大腸がんの検査には、便潜血検査、大腸内視鏡検査、注腸造影検査などがあります。特に大腸内視鏡検査は、直腸から盲腸までの大腸全体を詳しく調べることができ、ポリープなどの病変が見つかった場合は、その場で組織を採取して病理診断を行うことができます。
画像強調観察や拡大観察などの技術により、病変部の表面の構造をより詳しく検査することも可能になっています。また、CT検査、MRI検査、腹部超音波検査などを用いて、周りの臓器へのがんの広がりや転移がないかを調べることができます。
出典国立がん研究センターがん情報サービス「大腸がん(結腸がん・直腸がん)検査」より作成
定期的な検診を受けることで、がんを早期の段階で発見できる可能性が高まります。
特に50歳以上の方、家族に大腸がんの患者さんがいる方、遺伝性の大腸がんのリスクがある方は、積極的に検診を受けることをお勧めします。早期発見によって、転移のリスクを大幅に減らし、治癒の可能性を高めることができるのです。

転移や再発を伴う進行大腸がんの治療は、標準治療に加えて、新しい治療法の選択肢も広がっています。
標準治療としては、手術、抗がん剤治療、放射線治療などがあります。肝臓や肺への転移巣が切除可能な場合は、外科的切除が検討されます。しかし、転移巣が複数ある場合や、切除が困難な位置にある場合は、薬物療法が中心となります。
近年では、がん遺伝子検査によって、KRAS遺伝子、BRAF遺伝子、HER2遺伝子などの異常を調べ、それぞれに応じた薬を使用した薬物療法が可能になっています。また、遺伝子に入った傷を修復する機能が働きにくい状態になっていないかを調べるMSI/MMR-IHC検査も行われており、これらの検査結果に基づいて個別化された治療が提供されるようになっています。
ICVS東京クリニックでは、進行大腸がんや再発大腸がんに対して、独自の免疫療法であるHITV療法を提供しています。
この療法は、免疫システムの司令塔である樹状細胞を活用した治療法です。CTガイド下で樹状細胞を腫瘍へ直接投与することにより、患者さんご自身の大腸がんが持つ複数の抗原情報を高精度に学習させ、その情報をもとにCTL(キラーT細胞)を体内で強力に誘導します。
腫瘍内に直接投与された樹状細胞は、腫瘍そのものを免疫細胞を生み出す「ワクチン化」し、血液中を巡る微細ながん細胞への継続的な攻撃、転移・再発の抑制といった作用が期待されます。当院では、国際的GMP基準に準拠した院内CPC(細胞培養加工施設)を完備し、専任の細胞培養士が樹状細胞および活性化T細胞を厳格に管理・培養しています。
大腸がんの進行度、転移の有無、これまでの治療歴、全身状態は患者さま一人ひとり異なります。ICVS東京クリニックでは、事前診断や詳細なカウンセリングを通じて、HITV療法を軸とした個別の治療計画をオーダーメイドでご提案しています。患者さまご本人だけでなく、ご家族のお気持ちにも配慮し、生活の質(QOL)を大切にした診療を心がけています。
大腸がんの転移は、リンパ行性転移、血行性転移、腹膜播種という3つの経路で起こります。
転移のメカニズムを理解することは、治療方針を決定する上で非常に重要です。早期発見・早期治療が転移を防ぐ最も効果的な方法であり、定期的な検診の重要性は言うまでもありません。
進行大腸がんや再発大腸がんに対しては、標準治療に加えて、免疫療法などの新しい治療選択肢も広がっています。ICVS東京クリニックでは、「治癒をあきらめない」という理念のもと、HITV療法を専門的に行っています。
もし大腸がんの転移や再発でお悩みの方、「もう治療がない」と感じておられる方がいらっしゃいましたら、まずは医療相談や事前診断を通じて、現在の状態にHITV療法が適応となるかどうかを一緒に検討させていただきます。治すことをあきらめず、患者さまのパートナーとして寄り添う医療を提供してまいります。
ICVS東京クリニック 理事長 蓮見 賢一郎

埼玉医科大学卒業。
東京大学医科学研究所を経て、現在は米国法人 蓮見国際研究財団理事長。
世界各国で『国際がんワクチン・シンポジウム』を開催し、がん免疫療法の啓蒙と研究活動を推進している。
米国Thomas Jefferson 大学 Kimmel Cancer Center に研究講座を開設、同大学の客員教授。
ブルガリアPleven 医科大学より、がん免疫療法の研究活動に対して名誉博士号授与。
その他、米国Maryland 州立大学、ドイツ Erlangen 大学との共同研究や、マレーシア国民大学(UKM)との臨床試験を行っている。